軽井沢日記
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9月6日 東京 54日目

 また、マージの鳴く声で目が覚めた。オシッコか・・・大慌てで支度をして、2頭を外に出す。マージはすぐに腰を屈めた。オシッコではなくウンチの態勢だ。マージはまた軟便をした。今日はワルテルと同じドッグフードを与えようと決める。
 雨は小降りだったが、相変わらずしつこく降り続けていた。10ほど敷地内を歩き回り、マージだけを別荘に戻して、わたしとワルテルは外に出る。近くのローソンまで行き、インスタントのスープを買った。
 別荘に戻り、犬たちの朝ご飯の支度をする。さっき決めたように、整腸用のドッグフードに作り置きのスープとヨーグルトをかけて混ぜ込む。マージにとっては数カ月ぶりのドッグフードだ。食べてくれるかどうか心配だったが、それは杞憂だった。今のマージにはご飯だろうがケーナインヘルスだろうがドッグフードだろうが関係ない。旺盛な食欲は衰えることを知らず、食器の中身は瞬く間に減っていく。
 ワルテルにも同じ食事を出し、続いて人間の朝ご飯を用意する。
 スライスしたクルミパン、インスタントのコーンポタージュスープ、粉チーズ入りのスクランブルエッグ。
 日記を書き、ネットをチェックし、マージと同じ病気、あるいは悪性リンパ腫と闘っているバーニーズにエールを送る。
 10時45分頃、読売新聞O氏から、軽井沢駅に到着したという電話が入る。11月に九州の大学で授業の一環として講演及び対談をすることになっているのだが、その打ち合わせにわざわざやって来たのだ。
 傘を差しながら自転車に乗り、駅前の喫茶店で打ち合わせをする。わざわざ来てくれたのだからもっと時間を取ってあげたかったのだが、いたしかたない。
 小一時間で打ち合わせを終え、また自転車で別荘に戻る。自転車から降りると、正午を報せるチャイムが鳴った。
 湯を沸かし、蕎麦を茹でる。
 食事が終われば、あとは仕事だ。
 パソコンに向かいながら、足元で寝ているマージに語りかけた。
「マージ、今夜から二日間、東京だけど、怒るなよ、拗ねるなよ。またすぐにこっちに戻ってこれるからな」  マージは眠ったまま、ぴくりとも動かなかった。

   
久しぶりに自宅に戻ったマージは不満そう・・・
久しぶりに自宅に戻ったマージは不満そう・・・
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つまんないから、わたしもう寝ちゃおうっと。
つまんないから、わたしもう寝ちゃおうっと。
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というわけで、死体のように眠っております。
というわけで、死体のように眠っております。
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ワルテルはこんな感じ。つまらないわけではない。
ワルテルはこんな感じ。つまらないわけではない。


* * *

 夕方、雨が少し小振りになったのを見計らって犬たちを外に出した。この降りなら多少遠出しても大丈夫かもしれない−−そう思った次の瞬間、小雨が本降りになった。
「マージ、雨降らすのやめろよ」
 わたしは恨めしげに呟き、空を見上げた。分厚い雲がかなりのスピードで移動している。台風の勢力圏から脱するまではこの状態が続くのだろう。
 早々に散歩を切り上げ、晩ご飯の支度をする。マージにはドッグフードでスープ、各種サプリ。ワルテルにも同じもの。一時期、ドッグフードを完全に毛嫌いしていたマージだが、味が変われば何でもいいのか、このドッグフードも嫌うことなく完食する。ワルテルはいつもと同じだ。
 犬の食事を終わらせてから、我々人間は外に食べに出る。軽井沢駅間の「和助」。わたしはロースカツ重、連れあいはヒレカツ重。肉は厚く柔らかく、タマゴはふんわり、出汁は少々甘いがしっかりとした味で、これまた美味。今度は天丼に挑戦しよう。
 帰宅すると、すぐに帰京の準備に入る。荷物を車に載せるために何度も別荘を出入りしていると、犬たちが興奮しはじめた。
「東京に帰るんだぞ。嬉しいことじゃないだろう、おまえら」
 しかし、一旦火がついた犬たちはそんな言葉では収まらない。荷物を抱える我々の足元に絡みつき、じゃれつき、やがて、その頭上に雷が落ちる。
「いい加減に落ち着け。怪我するだろう!!」
 マージはその場でしゅんとなり、ワルテルは寝室に逃げていった。
 すべての荷物を積み込み終え、犬たちを車に乗せて出発する。碓氷バイパスは霧に覆われていてヘッドライトをハイビームにしても10メートルから先が見えない。東京に戻るのは明日の早朝にしようかという考えが頭をよぎったが、自分の体力を考えて強行する。安全運転で行けばいいのだ。長距離ドライブの後に睡眠を取れるのと取れないのではその後の体の調子がまるで違ってくる。
 峠を越えると霧は晴れた。上信越道もがらがらで快適なドライブが続く。関越道に合流したあたりから雨足が激しくなった。前回、台風の最中に帰京した時も、この辺りで前がまったく見えないほどの土砂降りに遭遇したのだ。危険地帯−−スピードを落とし、ゆっくりと進む。それでも、水が溜まった路面ではタイアがハイドロプレーニング現象を起こして滑ってしまう。あなおそろしや。
 練馬についたのが午後9時。台風の影響か都内の道も空いていて、代々木の自宅に到着したのは9時半前だった。雨のせいか気温は思ったより高くない。それでも、軽井沢の気候に慣れた身体にはきつかった。車から降ろした犬たちをそのまま外に連れだして用を足させてから、部屋に向かう。
 マージが拗ねるのではないかと気が気ではなかったが、嬉しくはなさそうだが、かといってふて腐れているわけでもなかった。どこに連れていってもらえるのかと期待してたのに、家に戻って来ちゃったのね−−そんな感じを漂わせながら、マージはいつもの自分の場所に伏せて眠りに就いた。マージ以上におかしかったのはワルテルだ。しばらくぶりの自宅のことを忘れ去っていたのか、落ち着きをなくし、どこに行くにもわたしの後をついてくる。
「ワルテル、ここはおまえの家だぞ。忘れたのか? ほら、おまえのトイレの場所もあるし、おまえの大嫌いなハウスだってあるじゃないか」
 わたしはワルテルと向き合い、静かに優しく語りかけた。そのうち、ワルテルは納得したのかしなかったのか、わたしの仕事部屋に勝手に入っていき、仕事机の下に潜り込んで寝てしまった。
 わたしと連れあいはハードディスクに溜まっていたアメリカのドラマを見まくった。午前1時にベッドに潜り込む。久しぶりの自分のベッドと枕はとても心地がよかった。







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