W杯特別寄稿

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「全日本選抜競輪@高知」

 高知にはいい想い出しかない。一度しか行ったことはないのだが。しかし、あれは3年前か、オールスター。児玉−池尻を本線で当ててほくほく顔で競輪場を後にしたのだった。あの年は、競輪は絶好調だった。勝率は9割を超えていたのではないか。働くのがばからしくなっていたのではないか。それがなぜこんな体たらくに……。とりあえず、高知では負けなし。そう自分に言い聞かせて飛行機に乗りこむ。あほうですな。
 開催3日目、もろもろの事情で競輪場に到着したのが11時。4レースに間に合ってしまうなり。金がなくなるなり−−などと愚痴をいいつつ、相変わらず見ができない男。4、5、6、7レースと立て続けに外して懐具合がすでに寒くなる。そういえば高知は雲ひとつない晴天ながら、日陰にはいるとえらく寒く、まるで砂漠の気候のよう。
 8レース、ここは石丸の捲りで決まりだろうと決め打ちするも、懐具合が寂しいと買う車券の額までみみっちくなる。せっかく本線でとらえても、減らした軍資金を回復させるまでにはいたらない。
 しかし、このたびの全日本選抜、なんか推理しにくい番組がやたらと目につく。続く9レース、こんなもん推理なんかできるかとばかりに星島太の3連単3着流しで勝負する。するとなんと、見事に星島3着。3連単の配当は17120円。でも、500円しか流していない。
 一緒にいた友人が「星島の3着流ししか買ってないんなら、500円ってのはないんじゃねえか」
「だって星島だぞ。そんなに金つっこめるかよ」
 選手が聞いたら怒るな、間違いなく。
 10レースからは準決勝3レース。まず、10レースは、100パー逃げるであろう松岡につける一丸から澤田と堤を絡めて勝負。8番手明白の吉岡は切って捨てる。ところが、捲るはずの澤田が逃げて、その番手に松岡がはまるという展開。澤田、頭悪し。悪すぎる。それでも、一丸が伸びてくるだろうと高をくくっていたのだが、一丸は後ろから襲いかかってくるハイエナどもに飲みこまれ、哀れ5着。決勝へ勝ち上がったのは、松岡、高木、堤。わたしは大いにへこむ。
 続く11レース。これまた逃げるに決まっている佐々木の番手の小川から勝負。GP出場崖っぷちの小川、なにか一発やるでしょう、普通。ところが、打鐘周回4コーナー、だれもが牽制しあってコース最上段へ9選手が膨れあがっていく。
「おい、そのままじゃ小嶋が逃げるぞ、佐々木」と叫んでみたものの、後の祭り。なんとか踏み出したものの伏見に合わせられ、もがき合い、脱落。そりゃおまえ、いくらなんでも伏見ともがき合ったら負けるわい。結局、小嶋の捲り一閃でケリ。決勝に進みたいという気持ちはよくわかるけれど、どうしてあそこまで頭が悪いんでしょうか。それにしてもあれだけの牽制状態を続けながら、走行注意もなにもつかないとはねえ。どうなってんのよ、今の競輪のルール。そういえば、来シーズンからイエローラインなるものがコース中央に引かれて、ますます競輪はわけのわからないものになっていく。ファン不在もこれに極まれり。
 脱力感に苛まれながら、いよいよ最終12レース。前日の直線の伸びが強烈だった児玉から。位置は小野の後ろ。村上が逃げても捲っても、あの脚なら直線突っこんでくるという確信とともに車券を買う。ここ1、2年、見たことのない脚だもの。
 レースは海老根が逃げて、小野が切り替え、こりゃいけるなと拳を握ったものの、最終バック付近で児玉が新藤と絡み、後退していく。
「うそぉ」というわたしの声も虚しく、小野、村上でジ・エンド。
 ため息も虚しく、おけら街道をとぼとぼと帰途に着く。夜、はりまや橋付近の美味しい居酒屋で鯨の刺身やはりはり鍋に舌鼓を打ちつつ、逃げ渋った佐々木の悪口をこれでもかと言い放ってやるつもりだったのだが、とても上品な店の大将が「うちにもね、佐々木選手よく来てくれるんですよ。彼、いい子でしょう。わたしも応援してましてね」と。
 さすがに悪口をいえるはずもなく「うん、彼はね、最近の若手の競輪選手の中では一番ですよ」などとお愛想を口にする。くそー。佐々木が迷わず逃げてたら小川だったんだぞ。おれも金持ちだったんだぞ。ちきしょっ。でも料理うまかったし楽しかったからいいか。
 翌月曜。ホテルの近辺の銀行が軒並み閉まっていて焦る。なんとか郵便局を発見し、軍資金を確保。だから休日の競輪は嫌なんだよなあ。
 うどんを食して競輪場に到着したのは12時前。前日は貴賓席に案内してもらったのだが、さすがに決勝当日は人でいっぱいだということで特別観覧席へ。そういえば、帰りの飛行機の中で酔っぱらったおっさんが「施行者を中にいれておれたちを追い出すなんてけしからん。金払ってるのはおれたちだぞ。あいつら、客を舐めてるんだ」と大声で叫んでいた。まったくそのとおり。車券買う施行者なんかいないだろうが。役人はこういうところがダメダメです。
 とにかく、特観席は煙草が吸えないのがきつい。予想紙を睨んで脳細胞をフル回転させているときは煙草は必需品だというのに。
 ともあれ、参戦は5レースから。番組表を見て、いきなり予想を放棄。一番弱いライン−−四国ラインの3人、3連単のボックス買い。こういうことしてると競輪の神様から見放されるのだが。
 6レース。昨日しくじった澤田よ今日こそは、というわけで、澤田−大井裏表から数点に流した3連単勝負。撃沈。まあよい。今日の勝負レースは佐々木と児玉が同乗する7レースなのだ。
 さあ、7レース。佐々木がギア倍をあげてきた、ということは捲り勝負。そりゃなあ、児玉に差される、あるいは早めに踏まれるとわかっていて先行勝負はできんよなあ。それでも、今大会の児玉の出来なら捲りでもきっちり差すだろうと大勝負をかける。ここである程度儲けて、決勝戦でさらに儲けるのだ。逃げるのは稲垣、それを捲るのが佐々木、ここまでの読みは大筋で当たっていたのだが、佐々木の仕掛けがあそこまで遅いとは……そんなに児玉が嫌いだとは……。遅めの仕掛けの捲りはばっちり決まって、最後の直線、他の7人をぶっちぎっての快勝も、あれでは児玉といえどもさせるわけがなく、佐々木−児玉の車券はど裏目。押さえてはいたけれど、とても喜べるような払い戻しではなかった。ふぅ−−ため息が重い。
 8レース、佐々木龍から買いはしたものの、まさか南関ラインのずぶずぶとは夢にも考えず、惜敗。
 9レース、気分を立て直して、ここも前日同様石丸の捲りにかける。伏見の番手は競りとなれば、石丸捲っちゃうもんね。でも、昨日とは闘う選手の格が違うから、本線は小倉。そこに石丸と伏見絡めてこれでばっちり。なにがばっちりなものか。1着伏見、2着小倉。ここまでは良い。おれの予想では3着石丸、もしくは梶応、もしくは高橋。なぜそこに一丸が……。
 力無く10レース。こんなもん、齋藤が逃げて吉岡がまくるに決まってるんだろうが。とりあえず、齋藤の尻の小川と吉岡の裏表3千円ずつ買っておけばいいや。それから、調子がいい和田の3着づけだな……吉岡−小川で決着。払い戻しは4万5千円強。屁の足しにもならない。なぜ3万円ずつ買えないんでしょうか。
 朝おろした軍資金を若干減らして、最終レース。気力を立て直し、煙草を2本、喫煙所で立て続けにふかして予想紙を睨む。直前の顔見せでは、佐藤慎太郎が単騎。空いた松岡の後ろを小嶋と高木が走る。ふーん。松岡と村上のどっちが逃げようが、中団を奪うのは位置取りに一日の長がある堤だろう。村上の番手は小野と佐藤の競り。松岡の尻はマーク屋ではない小嶋。となれば、堤の捲り一発。堤−幸田から3着総流し。なにが起こってもいいように、堤−村上、堤−小野、堤−佐藤、堤−−小嶋もそれぞれ裏表を押さえる。どれが来ても最低百万円の払い戻し。堤−幸田の3連単がくれば最低で300万。最高で500万の払い戻しだ、わははははは。
 最終周回、バックの直線に入ったところで、わたしの周囲の客たちが叫びはじめる。
「行け、堤!」
「絶好の捲りごろだ!」
「行けるだろう、堤!!」
 もちろん、わたしも叫んでいた。「やったー、堤! これでおれも幸せだぁ!!」
 客の声援に応えるかのように、堤は、猛烈なスピードで前団を飲みこんでいく。だれの目にも、堤の優勝と映ったはずだ。
 ところが、村上とのもがき合いから脱落した小嶋がふらふらと後退する。そこに堤が接触。堤のスピードはがくんと落ちて、優勝圏外に去っていく。ああ、小嶋、なにしやがんだ、てめえ!! わたしの叫びも虚しい。捲りはこれがあるから怖いのだが。
 結局、小野のインをすくって村上の番手を奪った佐藤が微差で初優勝。GPへの出場権を2位の小野とともに獲得。はぁ。
 とぼとぼとタクシー乗り場へ向かうわたしの耳許に、場内放送が響いた。「審議の結果、7番選手は失格には至りません」
「小嶋は失格だろう。間違いなく進路妨害だろう。おれのために、せめてあいつを失格にしてくれ!!」
 そう叫んだのはいうまでもない。
 高知の空港で会った中野浩一さんも久保千代志さんも同じことをいった。「普通、あの展開なら堤だよね。運がないよ」
 うなだれるだけのわたし。
 高知競輪場への苦言−−オッズ表示が出るのが遅すぎます。オッズ表示の終了も早すぎます。せめて、オッズプリンターを設置してください。
 翌日のスポーツ紙に載った小嶋のコメント。
「堤君には悪いことをした」
 てめ、このやろ、ばかやろ。「堤君から車券を買っていたお客さんに悪いことをした、すみません」だろうが、てめ、このやろ、くそやろ。八つ当たりはとめどがない。

(2003年11月29日掲載)

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