 |
| - |
9月23日 軽井沢 71日目
きっちり目覚ましと同時に起きあがる。マージは呼吸が苦しそうだ。やはり、低血圧と一緒で朝は辛いのだろうか。
マージだけでなく、わたしもサポーターで完全武装して外に出る。家の中にいると肌寒さを感じたが、太陽がすっかり顔を出し、日なたは暑いほどだった。マージはよろめきながら歩いたが、用を足す素振りは見せなかった。歩くだけで精一杯、そんな感じだ。
排泄は諦め、ラジオフライヤーに乗せて近くの公園に行く。公園でもフライヤーから降ろして歩かせてみたが、やはり用は足せなかった。ベンチにマージを横たえて、ワルテルを遊ばせる。ワルテルは勝手気ままなロケットと化して走り回った。
20分ほどで帰途につく。
血の元になるものを食べさせたくて、ケーナインヘルスと一緒に羊のレバーを煮込んだが。だが、マージは匂いを嗅いだだけで食べなかった。悄然として、パンとチーズを食べさせる。
ワルテルはドッグフードにカテージチーズ少々と各種野菜のみじん切り。こちらは当然、完食。
人間は少し残っていた松茸ご飯を温め、昨日の麻婆豆腐の残りと明太子、それにキムチで朝飯を済ませた。
10時に清水さんがやって来る。家が建つまでの間、軽井沢のベースキャンプにする貸家を探してもらっていたのだが、見つかった物件を見に行くことになっているのだ。
出かける直前に、またマージに排泄を促してみた。オシッコが出た。ほっとする。清水さんの車にシートを敷いて、その上にマージを横たえる。ワルテルはわたしの横だ。連れあいが助手席に乗りこんで、出発。大好きな清水さんが来て、なおかつイレギュラーな外出も加わって、ワルテルはテンションを急激にあげている−−わたしに叱られまくる。
連休初日ということもあってか、碓氷バイパスから軽井沢を目指してくれる車列はすでに渋滞をなしていた。これさえなければ、軽井沢は最高なのだが。
目指す物件は鳥井原。バイパスをひたすら西に向かい、ツルヤを少し越えたところの狭い道を入っていく。少々古いが、貸家の壁はポップな黄色に塗られていて、図面で見て想像していたのよりは広かった。といっても、デッキ込みで19坪なのだが。月に一週間から十日、軽井沢で過ごすとして、この程度の広さなら問題はないだろう。なにより家賃が安い。もちろん、マージの体調次第なのだが。
外出するのを幸いと、部屋の掃除を頼んでおいたのですぐ別荘に戻るわけにはいかなかった。「煙事」で時間を潰そうかと考えていたのだが、来る途中に見ると、どうやら営業していない様子だった。考えあぐね、結局、清水さんもいることだし、スポーツパークで日向ぼっこをすることになった(スポーツパークはアロー建設が運営している)。
犬たちに取っては久しぶりのスポーツパークだ。車から降りると、マージは自らの意志で歩こうとした。やはりここが好きなのか。慌ててマージを止め、お腹にバスタオルを通してハーネスと一緒に支える。マージは懸命に歩き、立ち止まってウンチをした。長い時間がかかったが、自力で排泄したのだ。その後も歩こうとする。
「いいよ、マージ。くたびれない程度に歩け。歩けるんなら、歩こう」
わたしはマージを支えながら横歩きする。持ち紐の関係でどうしても前屈みになり、腰に負担がかかるのだが、そんなことはいっていられない。マージは秋風を堪能し、芝の匂いを嗅いだ。そして、動けなくなった。
芝の上にシートを敷いて、マージを横たえる。ワルテルのリードを放して遊ばせてやる。ワルテルにとっても久しぶりなのだ。ワルテルは目を輝かせ、涎を垂らして拾いグラウンドを走り回った。
寝ているマージのそばに駆け戻ってきたワルテルが「ひんっ」と悲鳴をあげた。栗のイガを踏んでしまったのだ。馬鹿だなと笑いながら怪我がないかどうか確かめる。なんともなかった。
木陰にいると風が気持ち良い。マージはシートの上でうたた寝をしていた。
12時を回ったところで帰途につく。マージに食べなかった朝ご飯を与えてみた。少しだけ食べて横を向く。人間と同じで、体調が悪い時は匂いのきついものは受け付けないのだろうか。血の元になるのに・・・。
ご飯の代わりにパンとチーズを与える。こちらに対しては旺盛な食欲を示してくれた。
仕事に戻る清水さんを見送ってからパソコンを立ち上げ、メールをチェックして愕然とする。
モネという5歳の牝のバーニーズが逝ってしまった・・・悪性リンパ腫と闘っていたのだ。お父さんもお母さんもモネのために必死になって闘い、いずれ、癌にも打ち克つかもしれないと密かに期待していた。だが、モネは逝ってしまった。
モネのお母さんにお悔やみのメールを書く。短い生涯だったけれど、モネは幸せだったはずだ。素敵な家庭に巡り会い、愛し、愛され、慈しまれ、例え癌で苦しんでいたとしても、逝くその瞬間まで、モネは幸せだったのだ。
そんな意味の文章を書きながら、死んだように眠っているマージを見た。
わたしはおためごかしを書いているのではないだろうか。マージが逝く時、わたしはマージが幸せだったといいきれるのか。人の都合で犬たちを苦しめてはいないか。
うるせえ、馬鹿野郎。いいきってやるさ。マージは幸せなのだ。モネは幸せだったのだ。
わたしはメールを送信した。
モネパパ、モネママ、思う存分泣いてください。悲しんでください。泣くだけ泣いたら、モネのために笑ってください。ずっと我慢をしてきたぺのこのために笑ってあげてください。
自分たちの方がずっと辛いのに、いつもマージのことを心配してくれてありがとう。
 |
| 朝の公園で。今日はかなり調子が悪そうだ。
|
 |
 |
| スポーツパークで。連れあいとマージ。
|
* * *
いつもよりオシッコをした時間が遅かったので、マージの夕方の散歩はお休みにする。わたしが散歩の支度をはじめると、マージは顔を起こして行きたがったが、目を見ながら説得する。
「マージ、今日は疲れてるだろう? 昼間日向ぼっこもしたしさ。マージのことないがしろにしてるわけじゃないから、怒らないで、このまま寝てな」
マージはじっとわたしの言葉に耳を傾けていた。それからわかったわよというように顎を床につけた。
ワルテルと一緒に軽井沢駅まで散歩に行く。七海夫妻がちょうど階段を降りてくるところに出くわした。昔、東京の我が家の近くに住んでいて、ちょくちょくマージの面倒を見てくれた夫婦だ。二泊三日で遊びに来た。
夫妻を従えて別荘に戻る。ワルテルは背後を歩くふたりのことが気になってしょうがないようだった。七海がお尻に触れると逃げだそうとする。臆病もここに極まれり。格好悪いことこの上なし。
七海は別荘に着くと、すぐにマージの横に座りこんだ。七海はマージが好きだ。マージは七海のことをただの子分と思っている。七海の思いはいつもマージには届かない。可哀想に。
ハタケシメジとトマトを煮込み、ご飯にかける。火を通した馬肉、ヨーグルト、粉チーズ、すりゴマ、グレープシードオイル、各種サプリのご飯を作る。マージは3分の2を食べた。少しずつ、確実に食欲が落ちている。わたしの気分も滅入っていく。だが、まだ食べる意欲はあるのだ−−自分にいい聞かせた。
七海夫妻を連れて旧軽方面に向かう。ピザの店「スコルピオーネ2」で晩飯。まあまあの味。テーブルが狭すぎるのが難点だなあ。ピザ皿がでかいのはわかりきってるのに、どうしてこういうレイアウトにするのだろう。
8時半に別荘に戻る。白と赤のワインでテンションをあげた連れあいが、七海妻を連れて遊びに出てしまう。
マージのことが心配じゃないわけではない。だが、酒が入ると別人格になってしまうのだ。わたしは溜息を漏らすだけだ。酒乱の酒癖をどうこういっても仕方がない。懲りることがないから酒乱なのだ。
K−1を欠伸混じりに見る。つまらんなあ。
10時に七海に手伝ってもらって犬たちを外に出す。マージは時間をかけて歩き、頑張ってオシッコをした。後ろ脚がほとんど利かなくなっている。自力で立てなくなるとあっという間に筋肉が落ちてしまうのだ。年老いた大型犬は悲しい存在だ。
マージと七海を別荘に残して、ワルテルと自転車走に。マージの衰えとワルテルの若々しさが鮮烈なコントラストをなしてわたしに迫ってくる。マージがもっと若い時、元気な時に新たな犬を迎えておくべきだった。
別荘に戻り、マージの頭上でイネイトをまわす。お茶を淹れてやっただけで七海のことは放ったらかし。すまん。おれではなく連れあいを恨め。
1時前に七海妻が戻ってきた。連れあいはまだ飲み続けているという。そんなもんだろう。わたしはもう諦めた。
1時に床に就く。
5時に連れあいが戻ってきた。ワルテルの吠え声で目が覚める。また寝不足だ−−わたしはだれも恨むことができず、何度も溜息を漏らし、寝返りを打つ。
 |
| ぼくの写真も撮ってってばあ!!
|
|←| top |→|
|
|
|
|