Hase's Note...


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「口に締まりというものがない」

 我が悪友、金子達仁が、テレビ東京アナウンサーの八塩圭子(字、あってるかな?)さんと結婚する。
 ワールドカップ後に、週刊誌やスポーツ新聞ネタになったので知っている人も多いと思うのが、あの当時は「なんでおれのところに話を聞きにこんのか。おれはあれもこれもそれも、なんでもかんでも知っておるのだぞ」と思ったものだ。まあ、騒がれる前に発表しておこうというお手盛り記事だったから、金子がわたしを避けたと見るのが妥当なところか。
 ま、それはそれ、わたしとは違って順調に金を儲けている金子がだれと再婚しようが、幸せになれるのならそれでかまわんのだが、先日、わたしの携帯の留守電に、金子からメッセージが入っていた。
「結婚式、出席してくださるそうで……ついては馳大先生に式のはじめのご挨拶をしてもらいたんですが」
 ご挨拶って、おいおいおい。実はわたし、金子にまだ返事をしていない。自分で自分が怖いのだ。わたしには前科がある。
 あれは二年前か、三年前か。わたしの友人でもある同業者がさる高名な文学賞を受賞したパーティの二次会だ。わたしは酔っていた。が、酩酊していたわけではない。彼の受賞を素直に喜び、祝杯を気分良くあげていただけだ。で、二次会に出席している作家おのおのが、受賞者にお祝いの言葉を述べることになった。みな、それぞれがそれぞれに受賞者を祝う。それを訊いているうちに、わたしの天の邪鬼な性格がむくむくと頭をもたげてきたのだった。みんながまともなこというなら、おれは笑いを取らなきゃ。なんのことだか。
 マイクを渡されたわたしは、いきなり、何日か前に受賞者から聞かされていた彼の風俗店での話をみなに披露した。会場には彼の奥さんを筆頭に親族、関係者が集っていることをすっかり忘れ去ってだ。
「馬鹿野郎、馳。女房のいる前でなにいってんだよ!!」
 彼に怒られて初めて、わたしは彼のそばに奥様がいることに気づいたのだった。それからしばらくして、彼らは離婚した。わたしのせいではないのはわかっているのだが、心が痛む。
 かように、酔った時のわたしの口は締まりがない。
 まずいことに、わたしは金子と八塩さんの初デートの現場に出くわしており、それ以降、金子と八塩さんの間にあったことなども、かなり詳しく知っておる。スパイを雇っていたからだ(嘘)。それだけではなく、金子が八塩さんと出会う前にあったあれやこれやもわたしは知っている。
 これが金子だけの祝い場なら、すべてを開陳しつつ「金子、おまえ、アホだったなぁ」などといって笑っていれば済むことなのだが、結婚式でとなると、そらもう、八塩さんの親族、関係者なんかも多数出席するのだろう。わたしは、そこで自分自身がなにを喋ってしまうのか、恐ろしくてたまらない。それを見越して、金子も「式のはじめの挨拶を」といっているのだろう、わたしが酔う前に、と。しかし、甘いんじゃないか、金子よ。本人が自分を信じられないのだぞ。
 金子の頼みだから「うん」といいたいのにいえないこのジレンマ。どうしたらいいのかと考えに考えた揚げ句、わたしは名案を思いついた。
 口止め料をもらえばいいのだ。金子からごっそり口止め料をいただく。そうすれば、いくら締まりのないわたしの口にも、がっちり鍵がかかるというものだ。
 が、しかし、金子がそんなものを払うとも思えん。払わんかなぁ。そうすりゃ、その口止め料を元手に、熊本のオールスター競輪に出撃できるのだが(今現在、資金不足により競輪は自粛中)。
 どうしたもんかなぁ、結婚式の挨拶。やらなきゃならないことが山積しているにもかかわらず、これが目下のわたしの最大の悩みの種なのである。

(2002年9月10日掲載)

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