Hase's Note...


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「近況報告」

 nakata.netTVの収録ではしこたま酒を飲んだ??というか、飲まされた。最初はミモザ、その後は白ワインを所望したのだが、次から次へと酒が運ばれてくる。わたしは目の前に酒があれば、なにも考えずに飲み尽くしてしまうクチなので、あっという間に酔っぱらった。なにせ、午後四時半収録開始である。すきっ腹でもあったのだ。
 酔ったわたしの口は信じられないぐらいに早く回転する。なんでもかんでも喋りたおす。気がつくと、二時間の予定だった収録が、三時間半を超えていた。おまけにスタッフにこういわれた。
「今までのゲストで、これだけ飲まれた方、初めてです」
 すみません。
 金子達仁の結婚式でも、酔ってしまった。なにせパーティがはじまってからものを食えるようになるまでに一時間以上の時間が潰された。その間にも酒は飲む。またしてもすきっ腹にアルコールである。やっと食い物が出てきても、なんだかしらんがカナッペのような軽食しか出てこない。それでも知人に挨拶したり、知らない人を誰かに紹介されたりしているうちに酒は進む。酔っぱらう。
 二次会は金子の豪勢な億ション邸で身内だけでささやかに行われたのだが、金子邸に到着した時点で、わたしは完璧にできあがっていた。新婦の圭子さんにねだられて金子が買ったのだろうワインセラーを勝手に開け、ワインを勝手に飲み、金子家の二匹の犬をいじめ、金子に絡んだ。
 気がつけば朝の四時半。二十人はいたはずの客はすべて消えていた。最後までわたしに付き合っていた「ナンバー」編集部のT君と、金子の後輩でカメラマンの鈴井君に、「馳さん、もう悪いから帰りましょうよ」と促され、しょんぼりと金子邸を後にしたのだった。八塩圭子、もとい、金子圭子の冷たい目が怖かった(嘘)。
 翌日はとんでもない二日酔いで夜の7時を過ぎるまでベッドから出ることができなかった。あの結婚式の唯一の嬉しいできごとは、スカパーの名物アナウンサー、倉敷さんとお近づきになれたことだなあ。今度、一緒に飯を食う約束をした。わたしもまた、ミーハーのひとりである。
 マージは調子が悪い。手術したあとの傷口からの出血が止まらず、腫瘍を取りきれなかったのではないかという疑いが出てきた。肥満細胞種(肥満という名はついているが、別にマージが太っているからこの病気になったというわけではない。要は腫瘍なのだが、なんでこんな名前になったのだろう?)は、再発率と浸潤率が高い腫瘍なのだそうで、出血がとまらないのはそのせいかもしれず、やはり、大学病院でちゃんと検査をした方が良い、ということになった。
 で、東大農学部の家畜病院にマージを連れていった。その日の内に再手術が決定。翌日、手術をすることに。術後も、おそらくは週2回の放射線照射を一月半から二ヶ月続けることになりそうで、こちらの心身もかなり疲弊してきた。
 東大の病院というと、そこに来る患畜のほとんどは町医者では手がつけられず、縋るような思いでやって来ているものばかりで、待合室はことの他静かだ。なかにはうるさく吠えるビーグルがいたりもするが、要するに死にかけているかそれに近い犬や猫が大半なのだ。そこにいると、気が滅入る。とことん落ちこんでいく。
 マージが可愛いといって話しかけてきた中年の女性がいた。彼女はシベリアンハスキーを連れてきていたのだが、このハスキーがゲージ(檻)の中に入れられていた。そのゲージを台車に載せて、御主人が台車を押して連れ歩いているのだが、凶暴だからとか、飼主のいうことを聞かないからということではなく、おそらく、もう自力では立てないから、そうなっている。
 話を聞くと、そのハスキーは内臓のあちこちに癌が転移しているのだという。
 ああ、どんどんどんどん気分が落ち込んでいく。
 大学病院だからして、そこらの町医者とは違って、診察を待つにも、検査を受けるにも、検査の結果を待つにも、時間がかかる。わたしは都合、三時間、病院にいたのだが、その間も、待合室は悲嘆と絶望とかすかな希望のオンパレードだ。
 マージが血液検査から解放されてわたしの元に戻ってきた直後、くだんのハスキーも別の診察室から出てきた。飼主の女性は零れおちる涙をハンカチで必死に拭っていた。その瞬間、ハスキーがだめなのだ、医者にも見放されたのだということがわかって、わたしはマージの身体を抱きしめた。そうしないと、もらい泣きしてしまいそうだった。
 人間の病院も同じだが、大学病院に長くいると、気が滅入る。
 どんな犬も、飼主から離され、診察室や検査室に連れていかれる時は、悲しげな顔をする。精一杯、抵抗しようとする。大学病院のもの悲しい雰囲気が、やつらにもわかるのだ。連れていかれる犬を、心配げに見守る飼主たちを、わたしは笑えない。
 マージは今、その大学病院にひとりでいる。もうすぐ手術を受け、3日ほど入院することになっている。その後は放射線照射だ。仕事なんかまるで手につかない。入院期間中は一日二時間の面会が認められている。わたしは毎日、見舞いに行くだろう。そして、自分の犬が元気に生きている喜びに身を震わせる一方で、待合室では相も変わらず死に瀕した犬と、それを助けようとなけなしの金銭を手にしてこの病院を訪れてくる飼主たちの悲嘆に身を震わせるのだ。
 ああ、やだやだ。
 というわけで、近況報告おしまい。
 マージの病院通いが終わるまで、更新の頻度は低くなると思うけど、ご勘弁を。

(2002年10月23日掲載)

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