Hase's Note...


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「また、図書館」

 先日、日本推理作家協会という団体の理事会があって(おれ、一応理事なの。できればとっととやめたいんだけど、K方K三先生とかO沢A昌先生とかがやめさせてくれないの。使いっぱが欲しいんだと)、またも図書館問題が協議された。
 なんだかなあ。うちの他に日本文芸家協会ってのがあって(一応、おれも会員なの。どうでもいいんだけど、やめるにも手続きがあって面倒なの)、そこが文化庁といろいろ話し合いを行っておるのだが、どうもその話し合いの内容が、いわゆる純文学をお書きになっていらっしゃる方々のことしか考えていないような内容だということで、いろいろとレクチュアを受けたわけだ。
 今現在、話し合いが進んでいる方向としては、国が税金から一〇億ちょい程度の基金を出して、図書館で利用された著作物に関して、その基金から割り振って金を出す、と。がしかし、たとえば、宮部みゆきの本が信じられんぐらい回転しているからといって、宮部みゆきの懐に三億ぐらいの金が入るってことにはならんらしく、おそらくは、各文芸団体−−日本文芸家協会、ペンクラブ、推理作家協会あたりで頭割りされて払われるのではないか、なんてことらしい。そんなことになれば、だ、要は一番金稼いでるエンタテインメント系の作家の稼ぎを横取りするといわれてるみたいなもんだ(ああ、また問題発言かな、これ)。たぶん、そうなったらおれの懐に入る金なんて、ン千円ぐらいなんだろうなあ。しかも、これで話がまとまると出版社や書店には一銭の金も入らないことになるらしい。
 まあ、いくらなんでもそれじゃたまったもんじゃないということで、文芸家協会のそちらの担当をしている人間と話し合いを持とうということで理事会は終わったのだが、どうも、エンタテインメント系の作家は金をがぼがぼ持っているという誤解が、なんか、いろいろとありそうだなあ。
 そら、宮部みゆきは金を持っている(断言する)。赤川次郎だとか西村京太郎だとか、内田康夫なんかも金、持ってるだろう。が、このウェブでおれがよく書いているように、それ以外の作家の稼ぎなんて、たかがしれておる。書いた作品がたまたまベストセラーになっても、税金でがっぽり持っていかれるんだから。巨額の税金持っていかれても、それでもおれは金持ってるぞといえるようになるには、やはり、宮部みゆきになるしかないのだ。だが、なれんのだ。
 おれたちが図書館のベストセラー大量仕入れを問題にしているのは、別に金が欲しいからではない(金はそら、欲しいが)。モラルの問題だ。あるいは、出版業界の存続に対する危機感だ。
 前に図書館問題をこのウェブで書いたときに、知ったかぶりふうのメールが来て、本は高い、なぜなら出版社が儲けすぎているからだ、だからわたしは本は図書館で借りる、なんて趣旨のメールが来たことがある。もう、現状把握がダメね、こういうの。儲けてる出版社なんて、ほんの一握り。それにしたって、この数年の出版不況でアップアップだ。そもそも、出版社の儲けなんてのは雑誌や雑誌に付随する広告収入が主なものであって、文芸書出版部門は、軒並み大赤字だろう。おれたち作家は、出版社が雑誌で儲けた金を回してもらって、細々と作品を発表させてもらってるようなものだ。このまま出版不況が続き、儲けてるはずの出版社の体力が落ちていったら、真っ先に切られるのは文芸出版だ。文化だなんだといったって、てめえの命がやばかったら、そんなものに見向く人間なんていないわな。結局、出版社は確実に儲けを見込める作家の小説しか出版しなくなる。売れない小説家は路頭に迷う。新人が出にくくなる。読者は読みたい本が読めなくなる。日本の小説界が壊滅する。本が読めなくなった日本人はますます頭が馬鹿になって、日本という国自体が滅びる。
 これは現実に差し迫っている本当の問題だ。確かに出版社にも問題は多々あるのだが、だからといって図書館が−−司書もろくにいず、役人が自分の点数稼ぎに奔走しているだけの図書館が、無茶をやってもいいという話にはならない。東京都下のとある図書館じゃ、ハリポタの第四巻を数百冊仕入れたらしい。それだけ仕入れたくせに、数百人単位の「貸し出し待ち」状態になっているらしい。さらにはとある図書館の館長が、予算が減らされている今、図書館を救う道は「ブックオフ」から図書を買うことだなどと放言したこともある(書いたっけ、この話?)。どうなっておるのだ、この国は。中国や東南アジアの知的所有権のコピー問題はゆるせん? 同じやん、発想が。連中と。
 またある読者からは、本の出版数が多すぎてどれを読んでいいのかわからない、それで図書館で本を借りる、借りて面白ければ、その作家の本は次からは書店で買う、そういう人間もいるのだから、やっぱり図書館は必要です、というメールが来た。
 その通りだろう。なにもおれたちは、おれたちの本を一切図書館に置くなといっているわけではない。新刊が出たら、せめて半年は図書館に置くのを待ってくれとお願いしている。その半年の間に、出版社と作家はそれぞれに努力して稼ぎをあげ、自分たちの食っていくぶんをなんとかしてから、図書館を利用する人たちに貸しましょう。別に無茶をいっているつもりはないんだが、図書館には耳を貸す気はほとんどないらしい。そんなことをしたら利用者が減って、図書館の予算が削られて、あげく、役人としての自分の将来に傷がつくからな。
 まあ、いろいろ書いてきたが、この問題の大元は法律にある。日本人の著作権に対する認識にある。レコードやビデオは貸与権というのだが、要するに、発売されてから六ヶ月は法律で保護されている。レンタル屋や図書館に入るのは六ヶ月後だ。まあ、今はネットの問題があるけれども、それはまた別の話だ。ところ書物に関してはこの保護が適用されない。昔はね、戦争未亡人が旦那失って食い扶持稼ぐために貸本屋を初めて、その未亡人たちを保護するために書物だけ、特例として貸与権を剥奪されたのだが、もう、いつの話よ、それ。
 まあ、新作を発表するたびに、インタビューやなにかを受けて、たいていの人に「馳さんはベストセラー作家ですから」といわれるのだが、自分の本の刷り部数を考えて、確かに少なくはないけど、この程度の数で「ベストセラー」なら、いったいこの国の出版業界はどういうことになっておるのだろうと考える、馳です。

(2002年12月4日掲載)

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