軽井沢日記
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7月20日 軽井沢 6日目

 二匹がくんくん鳴く声で目が覚めた。なんだろうと思いながら目をこすると、連れあいが寝るベッドの上にマージが乗っていた。ベッドにあがったはいいが、降りられなくなって助けを求めたらしい。ワルテルはマージに付き合って鳴いているだけだ。
 ベッドから出ると、手足が冷えきっているのに気づいた。今日は間違いなく寒い。
 マージを抱きかかえておろし、貴重な睡眠時間が・・・と呟きながら食事の支度にかかる。昨日作っておいたスープに二〇穀米入りご飯、それに銀ダラの切り身をレンジでチンしたものを混ぜ込む。オリーブオイルを少し垂らして、仕上げにヨーグルトを少々。ワルテルはまた半量だ。わたしは牛乳をかけたシリアルに、軽井沢産の桑の実のジャムを入れて食べた。
 わたしより先に食い終えた犬たちが散歩に行こうと騒ぎはじめる。
「待てよ。飯食ったらクソしなきゃ。おまえたちも同じだろう」
 有言実行。たっぷり時間をとってトイレにこもり、すっきりして出てくると犬たちは狂ったように部屋の中をうろついていた。
「今日は寒いぐらいだから、野っぱらで遊ぼうか」
 湯川ふるさと公園に向かう。駐車場には一台の車もなく、だだっ広い野っぱらには人も犬もいない。二匹のリードを外し、「ゴー」と声をかけると、ワルテルはすぐに走り出したが、マージはその場で牛のように草を食みはじめた。まったくもう。
 わたしが走ると、マージは草を食むのをやめて走り出す。わたしが止まると、また草を食みはじめる。
 まあいいか。好きにするといい。
 また、小一時間ほど遊んで帰途につく。マージは水を一気飲みし、ワルテルは足を洗う順番を待っているうちに玄関で眠ってしまった。
 10時過ぎ、部屋に掃除が入った。ワルテルは最初のうちはわんわんと騒ぎ立てたが、掃除機が唸りはじめると部屋の隅にいって小さくなった。マージは割れ関せずで爆睡している。経験不足の小僧っこと海千山千の婆さんの対比は面白い。ワルテルもいずれ、マージのように太々しくなるのだろうか。
 12時に昼飯。ツルヤで買ってきた冷凍のパエリアとミネストローネスープ。  
楽しいな。本当に楽しいな。
楽しいな。本当に楽しいな。
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ワルテル、セクハラ中。
ワルテル、セクハラ中。
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股関節はまだまだ柔らかいんです。
股関節はまだまだ柔らかいんです。


     
* * *

 連休が明けて、いったんは人の姿が減った貸別荘地だが、今日になってまた人が増えてきている。週末の混雑を嫌って、平日に休みを取ってやって来たのだろう。お年寄りが多いのは、やはり、山の下の暑さを嫌ってのことだろう。
 マージたちを外に連れだすと、年老いたマルチーズを連れた中年のご婦人と出くわした。その後ろには杖をついた老人もいる。挨拶をし、少々の世間話。マルチーズは心臓が弱っているらしいのだが、軽井沢についた早々、興奮しすぎて具合が悪くなったそうだ。色々ある。
 わたしたちが会話を交わしている間、マージとワルテルはマルチーズの匂いを嗅ぎ回っていた。また興奮して具合が悪くなるといけないので、早々に退散する。ほんのりと日が射しているが、気温は低い。上着を着てきたのは正解だった。
 ワルテルがウンチをする。まだ、少し緩い。今日の晩ご飯も少なめにしよう。
 20分ほど敷地内を歩いたり駆けたりしていたが、やがて、マージの脚が止まった。お疲れらしい。軽井沢に来てからというもの、目一杯身体を動かしていたのだ。そろそろ疲労が蓄積してきたとしてもおかしくはない。
 マージを労いながら別荘に戻った。ワルテルはまだ遊び足りなさそうだが、致し方ない。連れあいが戻ってきたら、また別々に散歩をさせて、ワルテルには思いきり駆けさせてやる。
「それまで我慢しろよ」
 そう呟いて頭を撫でてやる。ワルテルは嬉しそうに口を開けた。
 ケーナインヘルスに生馬肉のご飯を作り、冷めるのを待つ間に、わたし自身の晩飯の支度をする。支度といっても、米を炊いて、お湯を沸かすだけだ。晩飯も、ツルヤで買ってきた冷凍のビーフカレー。冷凍庫から出したら、熱湯で10分茹でればできあがる。ツルヤの冷凍食品は旨いのだが、さすがにいじましくなってきた。明日は、連れあいが叔母と妹を連れてやって来る。そうなれば、食生活も良くなると自分にいい聞かせてカレーを頬ばった。
 旨い。近頃流行りのスパイスで力任せに作りましたというカレーではなく、優しい味。しかし、それなりに辛い。
 犬たちはとっくに完食。
 後片づけを終えてから、また仕事に戻った。扇風機も回さず、熱源である除湿器をかけ続けているのだが、半袖では寒気がする。上着を着て、仕事を続けた。
 爆睡しているワルテルが唸りながら四肢を痙攣させた。夢を見ているのだ。どんな夢なのか、犬が言葉を喋れるのなら是非聞いてみたい。そういえば、マージの寝言はしばらく聞いていない。年を取れば、夢の中身も活力を失っていくのだろうか。  
爆睡しているマージにそっと近づいて、ワルテルも一緒に眠る。
爆睡しているマージにそっと近づいて、ワルテルも一緒に眠る。


* * *

放射線の副作用で白髪化したマージの背中。痛々しい。
放射線の副作用で白髪化したマージの背中。痛々しい。
 マージの体力を気遣って、夜も短めの散歩。マージにフコイダンを飲ませ、胸のしこりをチェックする。大きさに変化はないが、柔らかくなったままだ。ここの腫瘍は死滅してしまったのだろうか。リンパ節のしこりの大きさは変わらない。
 ワルテルの口臭がきつくなっているのでグリーニーズという口臭予防、歯磨き効果のあるガムを与える。マージも食べたさそうにしているが、これを与えると必ず便が緩くなるのだ。
「おまえはこっちな」
 鶏肉を叩いて伸ばして干して固くしたガムを与えると、マージはおぞましい音を立てながらあっという間に食べ終えた。
 犬は食欲がなくなると、そこから一直線に死に向かっていく。マージの食欲は落ちない。東京にいる時は、夏場は食が細るのが普通だったが、軽井沢ではその兆候もない。
「いつまでも腹っぺらしの婆さんでいろよ」
 声をかけたが、もうなにも食べ物をもらえないということがわかっているマージは尻尾を振ることもなくごろりと横になった。

* * *

 寒かったが冷やしたイタリアのワインを3杯飲んだ。その後はラフロイグを2杯。Rafael Gonzalez Tres Petit Lonsdale. Le Hoyo des Dieux. 酒も葉巻も旨い。連れあいがいないと雑務が増えて大変だが、山でひとりで過ごすというのは心が洗われる。落ち着いて、のんびり流れていく時間を堪能できる。
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