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8月21日 軽井沢 38日目
頭が痛い。やはり昨夜は飲み過ぎた。そのまま布団にくるまって眠り続けていたかったが、犬たちがゆるしてはくれない。
諦めて起きあがり、肝臓補強のサプリを飲む。昨夜、これを飲み忘れたのが痛かった。
今日も快晴で、別荘地の空気は澄んでいる。犬たちを車に乗せてスポーツパークに向かった。いつもはなにもない駐車場にたくさんの車が停まっていた。
またフリスビー大会でもあるのかと思ったが、目を凝らすと、サッカーの試合の準備が進められていた。草サッカーの大会があるようだ。
グラウンドでは遊べないのでドッグランに入って、まずは陽射しを浴びる。その後で、木陰の中に進んでいる。日なたと木陰の気温差は5度はありそうだった。林の中の空気はひんやりとしていて、それを吸っているといつしか二日酔いも消えていった。
ワルテルのウンチはだいぶ硬くなってきた。が、今度はマージのウンチが緩い。二頭で示し合わせてわたしを困らせようとしているのかもしれない。
20分ちょっとでマージが帰りたがる仕種を見せたので、戻ることにする。駐車場はすでに満杯だった。
スープにご飯、焼き鮭(相変わらずワルテルは療法食)、ブロッコリのスプラウトのみじん切り、すりゴマ、ごま油、ヨーグルト、各種サプリでご飯を作る。ワルテルの量を少し増やし、マージの量を少し減らす。
人間の朝ご飯はバゲットにマンゴージュース。今日は軽めの朝食だ。
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ぼくの縄張りでなにやってんだよ? |
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ねえ、マージ、あいつら放っておいていいの? |
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あんな人たち放っておいて、涼しいところに行くわよ。 |
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この角度が一番綺麗に見えると思わない? |
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あぁあ、変な遊び覚えちゃったよ。 |
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あぁあ、変な遊び覚えちゃったよ。
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* * *
仕事をいったん中断して、連れあいと自転車に乗って旧軽に向かう。ワルテルがぼくも連れていってくれと吠えているが、そんなものは無視。気持ちのいい風を受けながら自転車を漕ぎ、東雲交差点の中華料理屋「萬里」にて、わたしは冷やし中華、連れあいは担々麺を食べる。やはり、満足の味。
別荘に戻り、わたしは仕事だ。途切れがちな集中力をなんとか維持して、喘ぎながら小説を書きつづる。3時半すぎにワルテルが起きてきて、鼻でわたしの肘をつついた。集中力は完全に失われてしまった。
しばし呆然とし、パソコンを閉じる。散歩に行こうと騒ぎ立てる犬たちを無視して、凝り固まった首と肩の筋肉をほぐし、立て続けに煙草をふかし、目を閉じる。ささくれだった神経が鎮まっていくのを待つ。犬たちを怯えさせてはならない。彼らは日々のスケジュールに従って行動しているだけなのだ。人間の都合は彼らには理解できない。
10分ほどそうしていてから、わたしは深いため息を漏らした。
「さあ、行こうか」
犬たちを外に出し、スポーツパークに向かう。サッカーは終わっていた。だれもいないグラウンドに出て、ぶんぶんボールという新しい玩具でワルテルを遊ばせる。テニスボール大のゴムボールに紐がついたもので、遠心力でかなり遠くに飛ばすことができる。
「フェッチ!!」
大きな放物線を描いて飛ぶボールをワルテルが追いかけ、やがてその足元で白煙があがった。ワルテルは驚いて跳びすさり、逃げまどう。サッカー野郎たちがぶちまけていった石灰の塊があったのだ。ワルテルの下半身は真っ白になっていた。毛を叩いて石灰を落とす。マージがやって来てわたしに身体をすり寄せた。ワルテルだけを可愛がっていると思いこみ、嫉妬している。
「そうじゃないよ、マージ」
マージを撫で、ワルテルにボールを追いかけさせる。わたしはマージのかたわらにしゃがみ、彼女を抱き寄せる。
「マージももっと走れたらいいのにな」
マージとよくやったかくれんぼ遊びを思い出していた。雨の降る日はお互いに憂鬱なので、遠くまで歩く代わりにマンションの駐車場で遊ぶのだ。マージにステイをさせ、わたしは遠く離れて駐車場の車の陰に隠れる。「カム!」と呼ぶと、マージは勢いよく駆けてきて、わたしを探すのだ。わたしを短時間で見つければ思いきり褒めてもらえる。時間がかかりすぎると「だめだなあ」と馬鹿にされる。マージはいつだって必死だった。ほんの一年前まで、マージは走ってわたしを探していたのだ。それが小走りになり、やがてまったく走れなくなって、わたしが隠れても、マージはステイしていた場所にとどまって、ただ立ち尽くすだけになってしまった。
たった一年で、こんなにも衰えてしまうのか−−軽井沢に来る前のわたしは、マージを見るたびに深く重い陰鬱の中に落ち込んでしまうのが常だった。
マージはわたしの髪の匂いを嗅ぎ、走れなくても楽しいわよといった。
ワルテルもぶんぶんボールが気に入ったようで、遠くまで飛ぶボールを懸命に追いかけている。
別荘に戻ると、ちょうど連れあいの妹たちが到着したところだった。次女とその娘、前回も来た三女。今回は一週間滞在するのだそうだ。マージは彼女たちに挨拶をして、あとはマイペース。しかし、ワルテルは突然の来訪者、得に姪の雪音の存在に興味津々という様子だった。常に視線は雪音に向けられていて、彼女が予想外の動きをすると警戒して飛びすさるのだ。雪音も雪音で、ワルテルに触れたくてしょうがないのだが、その反面怖くもあって、マージを撫でながらじっとワルテルの様子を伺っている。いずれ打ち解けるだろうと思いつつ、ふたりの様子を微笑ましく見守った。
ケーナインヘルスと馬肉(ワルテルには療法食)の食事を犬たちに与え、我々は旧軽の「川上庵」に行く。人数が多いと、頼む食事の量も多く、いろんなものが食べられて嬉しい。生ビール一杯、日本酒一杯、赤ワイン一杯でとどめておく。昨日、飲み過ぎたことを考えれば、肝臓は労ってやらなければ。それでも飲むのかといわれれば一言もないが。
8時に別荘に戻り、全員で「エイリアン対プレデター」を見る。しょうもない映画だが、和気あいあいと見る分には問題はない。
映画を見終えた後で、また犬たちと散歩だ。マージは例によっておしっこをしただけでお帰り。わたしはワルテルと自転車の小旅行へ。ワルテルは夕方も夜もウンチをしない。体調が上向いてきたのかとも思うが、それでなんど騙されたか知れない。結論を出すのは明日以降だ。
散歩の後は「エイリアン・・・」のDVDに「トゥルー・コーリング」というテレビドラマの一話目が収録されていたのでそれを見る。面白いとは聞いていたのだが、うーん、確かに面白い。日本のチープなチープなテレビドラマとの落差に唖然とするだけだ。
ドラマを見ている最中、3女が桃を剥いてくれた。ああ、何度も書くが、家事から解放されるというのは素晴らしい。桃を食べ、ワインを飲み、葉巻をふかす。
次女たちは11時過ぎに床に就いたが、わたしと連れあいはしばらく起きていた。雪音が見えないところに行って安心したのか、ワルテルもやっと眠りに就く。
多分、明日も軟便だな−−ワルテルの様子を見ながら、わたしはそう思った。
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雪音に触られて緊張気味のワルテルです。 |
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