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8月24日 軽井沢 41日目
9時に目覚め、カロリーメイトで朝食を摂る。首筋ががちがちに強張り、腰も張っている。これは限界だと、近所の中国整体に行った。整体師はわたしの身体に触れるなり、深いため息を漏らした。
整体を60分、足つぼマッサージを30分受け、近くのラーメン屋で冷やし担々麺を食べる。ずいぶん身体が楽になった。
一旦マンションに戻り、荷造りをする。1時を過ぎたところで駐車場に降り、マセラティに乗ってエンジンをかけた。しかし、電子機器類は一瞬瞬いただけで目覚めることがない。いや、死んでしまったようになにも動かない。ドアの開閉時には窓が少し下がり、締めたところで元に戻るシステムになっている。そのせいで、開けたドアも閉まらない。バッテリを確認しようにも、バッテリが収納されているトランクの蓋も開かない。電気系統が完全にいかれているのだ。8月頭に車検から戻り、一昨日も1500キロの道のりを走ってきた。バッテリがあがったわけではあるまい。
頭が痛い。噴き出る汗を拭いながらまた重い荷物を抱えて部屋に戻る。ディーラーの名刺を探し、電話をかけ、状況を説明する。
とりあえず、サービス部で段取りをつけてから折り返し電話をもらうことになる。
はぁ・・・買ってから3年、ここまではなんのトラブルもなく来たマセラティ・スパイダーだが、ついに、伝説が伝説ではないことを照明してくれた。壊れるのだ。1300万もする車が、いとも簡単に。それでも所有していたいと思わせるなにかを持ち合わせているから始末が悪い。
車が使い物にならないので、重い荷物をかかえてタクシーで東京駅へ向かう。3時28分発の長野新幹線に乗って軽井沢へ。車内で眠ろうかとも思っていたのだが、1時間で到着ということで寝過ごしてしまう可能性が大。なんとか起きていつづける。
トンネルを抜けると、そこは霧にけぶる異世界だった。気温は18度。東京とはほとんど10度の気温差がある。連れあいたちが犬と散歩に行っている時間で迎えに来てもらうわけにはいかないので、霧雨の中歩いて別荘に戻った。
すると、ちょうど連れあいたちが散歩から戻ってきたところに出くわした。車の中で、わたしに気づいたマージとワルテルが暴れはじめる。そのままではマージが車から降りる時に足を痛める恐れがあるので、とりあえず、別荘へ急いだ。荷物を置き、駐車場に取って返す。マージもワルテルも盛大に尻尾を振っている。ワルテルはリードを持っている3女を引きずって歩いている。
「ただいま。いい子にしてたか?」
二頭を抱きしめ、もみくちゃにし、また、もみくちゃにされる。
「ああ、束の間の夢だったなあ」
三女が呟いた。わたしの留守中、ワルテルとの親密度を高めていたらしい。だが、わたしが帰ると、その他大勢にされてしまうのだ。彼女には悪いが、しかし、これが犬飼いの醍醐味だ。わたしは唯一無二の王であり、ワルテルもマージも忠実な僕だ。王に与えられるものは愛と癒し。王が与えるものも愛と癒し。
雨が強くなってきたので、再会を喜ぶのはそこそこに済ませ、犬たちを別荘にあげた。
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バロンの形見のレインコートを着たワルテル。 |
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同じくマージ。
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まだお腹が減っていないという次女たちとは別行動を取ることにして、わたしと連れあいは六本辻の「ピレネー」というレストランに行った。暖炉の炎を使った各種肉のローストを売り物にしているフレンチレストランで、前に行った「プリマヴェーラ」の姉妹店だ。テラス席しか空いていないということで、上着を持参していったのだが、テラスにはビニールが張られ、ストーブも焚かれていて快適だった。開店一周年記念特別コースというものを頼む。前菜二品、羊腿肉の焙り焼き、洋風お茶漬け、デザートというメニュー。とりあえず、旨い。しかし、期待が大きすぎたせいか、感動はなにもない。ようやくわかってきたが、軽井沢のA級グルメはどこも「そこそこ」なのだ。不味くはない。しかし、感動も与えてはくれない。逆に、B級グルメには感動がある。ガイドブックには決して載らない店にこそ秘密が隠されている。中軽井沢の「はち巻き」、軽井沢駅前の「和助」、東雲交差点の「萬里」。コストパフォーマンスがよく、旨く、感動がある。
八時半に帰宅し、DVDで「ラン・ダウン」というアクション映画を観る。アメリカン・エンターテインメント・プロレスのスーパースター、ザ・ロックことロック様主演の映画だ。テイストはB級だが、ロック様の存在感に酔いしれ、楽しく映画を見終えた。
久しぶりの犬たちとの散歩だが、雨が強くなっていた。マージはいつもと同じでおしっこを済ませるのと同時に散歩を終え、わたしとワルテルはしばらく雨の中をうろつく。昨日、マージの注射のついでにワルテルの軟便について、連れあいが医者と相談したらしい。その結果、腸の弱い子に食べさせるためのドライフードを与えることになったのだ。それが効いているのか、ワルテルはころころとした固いウンチをたくさんした。
「良かったな、ワルテル」
びしょ濡れのワルテルの頭を撫で、別荘に戻る。マージはすでに眠りに就いていた。起こすのは可哀想だと思ったが、わたしは横たわるマージに近づいてお腹を撫でた。
「マージ、寂しい思いさせて悪かったな」
マージは尻尾を振り、頭を上げてわたしを見た。だが、それも数秒のことで、すぐに目を閉じ、深い眠りに落ちていった。
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