軽井沢日記
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9月10日 軽井沢 58日目

 目覚めると布団を半分以上蹴飛ばしていた。昨日の寒さは影をひそめ、快適な涼しさが室内を支配していた。マージはベッドのそばにはいない。ずっと居間でひとりで寝ているのだ。
「マージ、今日は具合はどうだ?」
 居間に行くと、マージは顔をあげて尻尾を振った。立ち上がろうとする気配はないが、動作のひとつひとつに昨日より力感が漲っている。
「散歩、行けそうだな。よし、待ってろ。すぐに支度するから」
 マージを抱きかかえ、おそるおそる地面に降ろした。昨夜ほどではないにしても、マージはまた少しよろめいた。それでも、自分の意志をはっきりと足に込め、歩き、オシッコとウンチをする。体調は完璧ではないにしても上向きだ。ほっとしながらワルテルを呼びに行く。
 マージが車に乗りたいという素振りを見せたので、2頭を乗せ、スポーツパークへ向かった。マージの様子を見つつ、疲れが激しそうならとっとと帰ってくるつもりだ。ワルテルには可哀想だが、もう少し我慢してもらおう。
 マージは顔をほころばせて歩いた。だが、その歩みはいつもよりさらに遅く、頻繁に足を止める。筋肉が衰えるのも怖いが、症状が悪化するのも怖い。5分ほどでマージの散歩を切り上げ、車の中で休ませることにした。
 ワルテルを走らせる。ぶんぶんボールを投げ、わたし自身も走り、ワルテルと競争する。もちろん、叶うわけはない。膝に手をついて肩で息をしていると、ワルテルが戻ってきてもっと遊ぼうとわたしを促す。10分ほどワルテルに付き合って、わたしはギブアップを宣言した。

* * *

 昨日作っておいたスープ(舞茸、黄パプリカ、キャベツ、豚の軟骨肉)にご飯、焼き鮭、ミックスハーブとキュウリのみじん切り、すりゴマ、各種サプリ。マージはご飯を少しだけ残した。しかし、心配するほどの量ではない。ワルテルはいつもの通り。
 食事を終えたマージを、わたしはいつまでも撫で回した。
 人間の食事は昨日の肉じゃがに納豆、イカの塩辛。昨日はあまり味わえなかったが、味が染みたジャガイモと肉がことのほか美味しく感じる。食べられるというのは素敵なことだ。
 メールをチェックし、ネットを徘徊し、日記を書く。そうすると、もう12時だ。そのまま仕事に雪崩れ込み、午後1時に連れあいが「腸詰屋」で買ってきたホットドッグと生ハムのサンドイッチを食す。パンの匂いに誘われて、マージとワルテルが我々の足元にやって来て、つぶらな瞳を向けてくる。この食欲があれば、しばらくは大丈夫だ。  

* * *

 午後4時にスポーツ雑誌「Sports Yeah!」のFさんとカメラマンのKさんがやって来る。ふたりとも、欧州でサッカーを観戦する時の仲間だ。Kさんがわざわざマージの写真を撮るために軽井沢に来るといってくれたのだ。
 マージはふたりに挨拶すると、すぐに興味を失って眠りに就くが、ワルテルは好奇心と警戒心を剥き出しにしてふたりにまとわりつく。ふたりに疲れを癒す間を与えず、スポーツパークに向かった。
 グラウンドで2頭の写真をたくさん撮ってもらう。わたしはまだマージの調子が心配なのでつきっきり。ワルテルはFさんが遊び相手になってくれる。が、ぶんぶんボールをまわしているFさんの見事に突き出たお腹に、ワルテルが前脚でダブルパンチを食らわせた。よろめくFさんの姿がツボにはまって、わたしは腹を抱えて笑った。
 20分ほどで散歩&撮影を切り上げる。マージは辛そうではないが、わたしの方が心配でしょうがない。
 マージのウンチがゆるめだったので、いつもより量を減らしてケーナインヘルスと鶏ササミ肉を煮込む。ワルテルにはドッグフード。早くなくならないかな、ドッグフード。  

   
一応、寝顔です。目、閉じて寝れ〜〜っ。
一応、寝顔です。目、閉じて寝れ〜〜っ。
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この笑顔が出れば、もう大丈夫。
この笑顔が出れば、もう大丈夫。
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たくさん、たくさん歩いたなあ。
たくさん、たくさん歩いたなあ。
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ワルテル、少し身体が大きくなったか?
ワルテル、少し身体が大きくなったか?
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Fさんと戯れるワルテル。
Fさんと戯れるワルテル。


 人間どもは6時過ぎに別荘を出る。軽井沢駅近くの洋風居酒屋「グラナダ」へ。名前が示すとおり、スペイン料理がメインの店だ。
 ハモン・セラーノ、チョリソ、海老のピルピル(海老を大量のオリーブオイル、ガーリックなどで揚げ煮にしたもの)、トマトと茄子のマリネ、肉のパエージャ、魚介のパエージャ。カバ(カタルーニャのスパークリングワイン)1本。スペインの赤ワイン2本。
 料理は及第点。パエージャのご飯粒に固いのが混じっているのが減点。でも、値段もリーズナブルで文句はない。
 サッカーの話、犬の話で盛りあがる。
 2次会はねーちゃん好き、カラオケ好きのFさんのために「たかくら」で。またも師匠が大量のキノコ類を持ってきていたが、今日はりこぼう(大きなナメコみたいなきのこ)を頂いただけ。他のものを出してもらっても「グラナダ」で食べ過ぎていたので入らなかっただろう。
 当然ながら、唯川夫妻はいつものようにカウンターで飲んでいた。
 時間が経つにつれて酒宴は盛りあがっていく。が、わたしは9時半を回ったころからマージのことが気になりはじめて、酒があまり進まない。カラオケを2曲歌い(しかし、軽井沢では東京の500倍ぐらいカラオケを歌っているな)、Fさんの熱唱に拍手し、11時前に、ひとりだけ帰宅した。
 昨日とは違い、マージは玄関まで歩いてきて、わたしの帰りを喜んだ。体調は完全復活と見なしても問題はなさそうだった。
 すぐに外に出す。マージは下痢をした。せっかく完全復活かと喜んだのに・・・。それでも、マージは夜の闇を恐れるのも忘れて敷地内を歩いた。途中、別の貸別荘から若者たちの騒ぐ声が聞こえてきて、それでマージの散歩は終了と相成った。突然、恐怖がよみがえったようだ。
 マージを別荘に戻し、汚れた足裏とお尻まわりを念入りに拭いて、もう一度ワルテルと外に出る。自転車で外に出て、夜の澄んだ空気を吸いながらワルテルを走らせる。
「ワルテル、マージが元気になって良かったな。おまえも気兼ねなく遊べるだろう」
 ワルテルはいつもと変わりなく、舌を出して駆けつづけていた。
 別荘に戻り、ちゃんと留守番していたことを褒めてやる。マージは顔をあげて尻尾を振った。マージの頭上でイネイトのペンダントを回し、ゲラを読む。しかし、すぐに睡魔が襲いかかってきた。12時半。寝るにはいい時間だ。
「ワルテル、吠えるなよ」
 連れあいの帰りが遅い時のお決まりの台詞を口にして、わたしは床に就いた。連れあいたちは午前2時に戻ってきたらしいが(もちろん、ワルテルは吠えたそうだ)、わたしはなにも気づかず、ただひたすらに眠りつづけていた。







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